2017/12/31
注射器のはなし

いやあ、いよいよ今年も終わりますねえ.。やっとPCの前に座って
ゆっくりブログが書けます。
さて、今日のはなしは注射器であります。
先日、注射器の箱を何となく眺めていたら、各部の名称が書いてあったんです。
僕らはシリンジと呼びます。Syringeですな。
でも、各部の名称を知っている同業者は多分ほとんどいないでしょうね。

指をひっかける部分はフィンガーフランジ。押し込む部分はプランジャー。
薬液を押す黒いゴムの部分はガスケット。
ほとんど日本語化されてませんね。しかも各名称から受ける印象は、
工業製品そのものです。ガスケットって(汗)
注射器の起源というテーマで検索すると古代ローマの"De Medicina"(医学論)には
すでに、注射器に関する記述がある…。
色んなところで、そう書いてあるんだけどホンマかいな。2000年まえでっせ?
調べてみると現在ネット上でDe Medicinaの原文と英語訳が
公開されていました(ネット万歳!)
とりあえず全部斜め読みしてみたんですけど、
注射器うんぬんより、その内容の面白さに感服。
膀胱にたまった石(膀胱結石)の手術の記述がスゴイ。
「まず、屈強な男二人が片方ずつ患者の足を持って…」麻酔無しかよ!

これは、1753年、イタリアの画家Gaspare Traversi作。(Wikipediaより)
1700年経ってもこの状態。地獄ですな。昔に生まれなくて良かったよう。
注射器の歴史は針の歴史…とは誰も言ってないけど、
技術的に中空の針を作るのはすごく難しい。
17世紀に活躍した英国の建築家クリストファー・レンはガチョウの羽軸を
針に使って犬に静脈注射を試みてます。
これは彼のオリジナルではなく、コロンブス到達前の南米で、既に鳥の羽軸と
小動物の膀胱を用いた注射器があったようです。
我々が見慣れている注射器の原型は1851年に登場。

英国人の医師、アレクサンダー・ウッドが鋼鉄製の針、
ガラス製の注射器を使ったのが最初。
今はガラス製の注射器はあまり見ないですね。
ほとんどがポリプロピレン製の使い捨て。
実はガラスのシリンジは慣れないと使いにくいのです。
内筒と外筒の摩擦がほとんどないので、不用意に持つと、
中の薬液がすべてこぼれてしまうのよ。研修医はまずこれに戸惑う。
でも、摩擦がない=組織を貫いていくときの抵抗を鋭敏に感じ取れる。
つまりセンサーとして優れており、麻酔科医には必須のアイテムです。

注射を用いた治療中、気分が悪くなり冷汗びっしょりでふらふらになってしまう人がいます。
針恐怖症というやつですけど、これはちゃんとした病名として認知されてます。
個人的には元気そうな若い男の子に多い感じがあるなあ。
たいていはしばらく休んでもらえば大丈夫ですけどね。

注射針といえば、ナノパス33…って、何のことだかわからないか(汗)
iPodを抑えてグッドデザイン2005大賞を受賞したんです。
僕らが採血の時使う針は直径0.7㎜。このテルモ製の針は0.2㎜しかない。
細い中空のパイプを切ったんじゃなくて、先に行くほど細くなる構造。
内腔も徐々に細くなってるところがミソ。すごい技術だよね。
開発にあたっては、たった社員6人の岡野工業の存在が大きかったのは
有名な話。名物社長のべらんめえ口調が痛快です。
ナノパス33は、その後ナノパスニードルⅡへ進化。

片方は日本刀のごとく反りがあって、もう片方は槍のように鋭い。
この超絶技巧が、わずか0.18㎜の細さのなかで炸裂している。
もう何だかよく分からない世界です。
ともかく痛くないのは素晴らしいことですね。

そろそろ、2017年も終わるし、まとめに入らなきゃいけないんですけど
何で注射器の話を始めたか忘れてた(汗)それはつまりプランジャーよ。
注射器の中の薬液を押す棒の部分。これをプランジャーと呼びます。
なんか語感が好きなのです。Plunger!
ちなみに英語版のWikiを検索するとこれが出てくる。

トイレが詰まった時に使うゴム製のカッポン。これもプランジャーなのね…。
使用感があるのがやな感じ(爆)
ちなみに洋画を見てて、Plungerという言葉を聞いたことは一度しかない。
状況を説明すると、ギャングのボスの妻ミアがヘロインの過剰摂取で
意識不明の状態。一緒にいたヴィンセントは売人のランスに助けを求めます。
そこで、ランスが出してきたのが救命セット(瓶にはアドレナリンと書いてある)
乱暴にも心臓に直接針を刺せと指示します。1分10秒くらいのシーン。
「 Then once you do, push down on the plunger.」
-心臓に刺したら、プランジャーを押すんだ!
そう、これっきりなんだよなあ。あんまり一般的な単語じゃないのかもね。

さて、きっかけがプランジャーだという説明は終わったけどますますまとまらない。
ひでえもんだよ。
誠に申し訳ない。ぐだぐだの状態のまま暮れていきますねえ、2017年。
数えてみたら、今年書いたログは235。結構頑張ったなあ。
これも読んでくださった皆さんのおかげです。感謝。
それでは皆さん良いお年を。