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いち、にい、さん・・・

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M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0

患者さんに麻酔をする時に、「数を数えなくていいんですか?」と聞かれることがある。どうも昔の麻酔科医は麻酔導入の際に数を数えさせたらしい。これには一体どんな効果があるのだろう。
恐らくは、不安でいっぱいの患者の意識を数を数えさせることによって逸らしているいるのではないかと想像する。小泉八雲の怪談に「かけひき」というのがある。乱暴に要約すると、悪事をはたらいた奉公人が主人(武士)に手討ちにされることになった。首を刎ねる直前になって、奉公人は自分を殺すなら死後呪ってやると脅す。主人は、それが本当なら、目の前の庭石にかじりついて恨みのほどを見せろと挑発する。首が刎ねられたあと、首は庭の飛び石に転がっていく。そして奉公人の首は飛び上がって本当に庭石にかじりつくのである。これを見て家来たちは震えあがる。
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その後、呪いを恐れた家来たちは施餓鬼供養を行うように主人に進言するが、主人は取り合わない。理由は処刑の瞬間、罪人の意識は、絶対に石にかじりついてやるという事のみを念じていたはずで、恨みが残るはずがないと。実際にその後に怨霊のようなものは出てこなかった。
いつもながら余計な話が長い(汗)ともあれ、何らかの作業に集中させることで、不安を取る効果は必ずあるはずだ・・・もっとも静脈麻酔による導入は患者にとってはまさに一瞬であり、わざわざ数を数えさえる意味がよく分からないのだが。
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かくいう僕も初めて麻酔を受けるときはとても緊張した。手術ではなく、医学部の実習である。教授自ら学生に笑気を吸入させるのだ。実習前日からひどく気が重くなった。ちゃんと、かかるのかがとても不安だったのだ。起きぬけにヘンなことを口走るのでは・・・など思いは千々に乱れるのである。
さて、いざ麻酔器の前に寝かされマスクをあてがわれて、笑気を吸い始めるとすぐに体がだるくなってきた。笑気を吸うと独特の酩酊感がある。18世紀に発見されて、しばらくは研究者とその友人たちの「お楽しみグッズ」として使われていたようだ。その後アメリカ人歯科医が鎮痛作用に眼を付け、麻酔として使用されるようになる。
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麻酔がかかってから、教授が先の尖った竹ひごを取り出し、僕の腕を強く突く。なるほど、全く痛くない。その後いつの間にか寝てしまい、頬をしたたかひっぱたかれて目覚めた。麻酔の間、空を飛んでいるような感じだったという者や「宇宙の誕生の瞬間をみた」という者もいて、みなそれぞれに感銘を受けたようだが、共通しているのは気持ちいいということだった。
「笑気」という名の通り、下らない駄洒落でも吸っているときに聞かされると笑いが止まらない。これは実習中に体験した。赤ん坊を麻酔すると寝ながらニッコリする子もいてああやっぱり「笑気」なんだなあと思わされる。
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手術室では、現在笑気はあまり使われない。麻酔導入前にマスクから流れているのは酸素だけだ。マスクをつけただけでは何も起こらない。主体は静脈麻酔である。マスクをした患者さんから鼻で吸うのですか?口ですか?と時々聞かれる。これはどちらでもいい。肺をたっぷりと酸素で満たすが目的だからだ。本当にいろんなことが気になるものだ。僕も一度だけ手術を経験したが、麻酔科医はさぞやりにくかっただろう。「何か麻酔法の希望はありますか?」と言われて、「何もありません。宜しくお願いします。」とだけ答えた。数秒後意識がなくなり、次に眼が覚めたら手術は終わっていた。

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