2018/09/06
「無駄」をすべて削ぎ落した末に残ったもの

ちょっと前に面白い体験をしました。
オプションが何にもついてないポルシェに
1日乗ってみたのです。最廉価グレードの「カイエン」
それでも900万円以上する。ランクルならオプションをフルに盛っても
おつりがくる。ポルシェはやっぱり高いっすなあ。

カイエンは、経営苦にあえいでいたポルシェを劇的回復に
導いた立役者です。
今や、ポルシェの販売するクルマの70%がSUV。
いまだに、カイエンの人気は衰えません。
野暮ったいデザインが多いSUVのなかで、流麗なデザインのカイエンは
異彩を放ってますね。工業大学の土木科にひとりだけ美少女がいるみたいな(爆)
オプションをひたすら削ぎ落した体脂肪率ゼロのカイエン。
はたしてどんな乗り物なのか。すごく興味深い。
ポルシェの魅力の根源ってなんだろうって話になると思うんです。

ドアに触れても、ロックは外れません。
キーレスエントリーのオプションがついてないので。
ま、リモコンで開ければいいか。
シートは電動です。上下前後に加えて背もたれが調節できます。
座り心地は柔らかく快適。ヒートシーターとかの快適装備はなし。
それもオプションです。腰痛持ちにはあると有り難いんだけどねえ。

キーを差し込んで回す。昔ながらのエンジン始動であります。
最近は軽でもボタン式だからねえ。ものすごく古臭く感じます。
キーを持ったままエンジンをかけたいなら、これもオプションになります。
メーターナセルはポルシェ伝統の5連式。

相変わらずカタカナのみ。すげえ読みにくい。
そんなに漢字表示って大変なのか?
カイエンのリアシートは広くてゆったり。
ポルシェの後席でまともに座れるのはこれとパナメーラくらい。

例によって、シートは前後には動かせないし
チルト機構もない。
お金を払えば、シートヒーターや、ベンチレーターも付けられます。
ま、冬は厚着して乗ってくれい。
エアコンの吹き出し口。

ただの吹き出し口です。調節は出来ない。
後席で温度をコントロールしたいならオプション・・・ってもういいか。
900万のクルマとしては明らかに装備が貧弱です。
外見とのギャップがすごいね。優雅なデザインの高級ホテルに泊まったら
部屋のトイレがタイル張りの和式だった…そういう衝撃。
もっといただけないのは、リアシートのサイドエアバッグがオプションで
あること。安全装備をケチるかどうかをオーナーに選ばせるわけです。
これっていやーな感じの踏み絵だと思わない?
オレは絶対後席にひとを乗せないって人はいいけどさ。

ライトをLEDにするのもオプション。なんでも商売にする。
ドイツ人のケチぶりを逆手に取った悪辣な商法。
でも、こんなの些末事です。一番問題だと思うのは
動力性能にモロに影響してくる部分までオプションになってること。
車体のロールを最小限に抑えるアクティブサス、後輪操舵による回頭性アップ、
スポーツモード+など…。

ダッシュボードにストップウオッチが…ない。
付いてるクルマは動力性能が上がるのです。無いと下取りに響くのよねえ。
国産車って、便利装備が揃ってるのが当たり前で、あまりオプションで
選ぶところがないです。でもポルシェは違う。
オプション全部乗せと全くなしでは、完全に別物のクルマになる。
じゃあ本当のポルシェはどれなんだ?

なんにもオプションの無いカイエンはどうだったか。
感心したのは5万㎞も走った個体だったのに、車体はすごくしっかりしてたこと。
安っぽいビビり音なんかしない。
踏み込むと、なかなか元気の良いエンジン音がする。
3,598cc 狭角V6 300PSだそうですけど、車が重いので2000㏄くらいに感じます。
山道を走ると、低めのギアで高回転を保って
楽しくドライブさせてくれます。このATは頭いい。
車幅もつかみやすいし、乗りやすい。
でも、レンジとかゲレンデを運転している時に感じる
「なんかすごいモノに乗ってる感」は希薄です。フツーなの。

900万のクルマとしては、とても割高です。
最近は軽自動車にもついてるアダプティブクルーズコントロールも付いてない。
クルマは電化製品とは違うので、便利機能がないから
駄目とは言えない。言えないけど…。
911の内装は昔から貧相だったわけですが、スポーツカーだし、ということで
皆さん納得してたわけです。でもカイエンで同じことするのはどうかと思うよ。

ドイツ人というと、見栄を張らず、節約を美徳とし、みたいな語られ方をしますよね?
でも独逸人に見栄を張るひとはいます。それもかなりの数が。
何しろ、ドイツ本国では月に3000台以上ポルシェが売れるんですから。
見栄は張りたい。ポルシェのバッジがついた車が欲しい。でも削れるところは全部削るぞ。
ケチることに関しては、全く臆することはない。全国民的に認められてる「美徳」だもの。
売る方も、心得たもので、そんならいっそ 全部オプションにしてやれ。
どんがらだけ用意したから、あとは好きに盛り付けしなよ、と。

ポルシェの廉価グレードは、メーカーにとって利益が一番少ない。
だからとてもおトクだ、という考え方があります。
僕にはそうは思えません。
ボクスターとかケイマンなどのピュアスポーツについては
確かにお得かもしれません。レースをしたいなら、豪華装備は邪魔ですし。
でもカイエンに関しては違うと思うんです。顧客が求めているものは
ステイタス性だったり、家族を喜ばせる快適性だったりするわけで。
そもそも、ポルシェとケチバトルをしたって勝てるわけがないです。
長年、筋金入りのドケチ国民に鍛えられてるんだから。
それに、オプションを削ぎ落して残ったものは、恐ろしく商品力の低い
乗ってるだけで寂しくなるようなシロモノです。
2シーターのスポーツカーだと、余計な装備なし=スパルタンという賞賛の対象に
なるわけですが、SUVのオプションなしは、単に貧乏くさいだけなのです。合掌。