2021/02/26
頑張れイナガキさん

雑誌GQの連載に「29歳フェラーリを買う」というのがありまして
僕のお気に入りであります。ライターはGQ編集部の稲垣邦康さん。
スゴイのは途中から「30歳マンションを買う」という連載もしてたんです。
書き手は編集者であって、決して高給取りというわけでもない。
編集部からの援助もないそうです。こんなことしたら家計は丸焦げ。
ほとんど自傷行為(汗)自腹の焦土作戦ですよ。素晴らしいなあ。
現職に至るまで、稲垣さんは何回か転職しているとのこと。
これはローンを組むうえでは不利なはず。銀行がいかにも嫌がりそうです。
実際に審査に落ちた、というのも赤裸々に書いていて、猛烈にオモシロいわけです。

フェラーリは360モデナを中古で購入。記事内容はトラブルから、駐車場の苦労や
実燃費、車検費用などなど、これから購入するヒトにとって非常にためになる内容です。
記事に添えられた写真も極めて上質。見ごたえありです。
読者の反応は、最初こそ「頑張って!」 というような温かいものでしたが
連載が進んで新車(!)の購入を検討するあたりから雲行きが怪しくなってきました。
新しい記事が出るたびに、コメント欄に罵詈雑言が並ぶようになります。
いわゆる「炎上」状態になったわけですね。
皆さん、若者が苦労して一台のフェラーリを大事に維持するのを期待していたようで…。
でも、こういう長期連載では仕方ないことだと思うんです。
そんなに面白いネタは続かないですものね。
ガンガン改造するとか、次のクルマに換えるとかしないと
注目度は徐々に下がってしまう。

少年漫画でボスを倒すと、次にもっと強いボス、その次にさらに強いボス…。
それと一緒です。主人公もどんどん人間離れしていく(笑)
クルマも同じで、連載が長期になると、改造しすぎて
ノーマル車と比較が出来ないくらい変わり果てた姿になったり(汗)
それと、いったん高額なクルマを買うとそれを元手に別のクルマに乗り換えるのは
わりとハードルが低いんですよね。
中古でスーパーカー買ったひとが、次に新車を、と考えるのは
ヘンではないし、ありえる話だな思います。

僕自身は、連載を通して楽しく読んでいるわけですが、
以下のようなことが、読者の不興をかっているようです。
やたらと特定のディーラーを賛美する記事が出てきて、タイアップが見え見えである
筆者は横浜のニコル・コンペティツィオーネにてメンテナンスを行っています。
首都圏に3つある正規ディーラーのひとつ。
フェラーリの整備、特に正規ディーラーの費用はかなり高いイメージがあります。
しかし、実際は僕が考えていたよりずっとリーズナブルなのは驚きでした。
記事に値段がバッチリ表記されているのもありがたいところ。
これって一つの物差しになるよね。別のショップのお品書きと比較できる。
他にも有益な情報がいろいろ。オプションなしでもオーダーも受け付けるとかね。
必ず300万円以上オプション付けるのがお約束になっているディーラーもある…。

これは以前とった見積もりのオプション部分。
そんなに凝ったつもりがなくても、トータルではエライことになる。
平均的には300~700万円分くらいつけるヒトが多いらしい。
定価3000万のクルマなら乗り出しは最低3600万を超えてきます。
フェラーリのオプションは基本的に走りの性能には関係がありません。
あくまでドレスアップがメインです。
必須と思えるのは、フェンダーの七宝焼エンブレムとLEDインジケータ付き
ステアリングくらいじゃないでしょうか。余計なもの付けないで済むなら有り難いです。
こういう情報はなかなかWebには載りません。貴重です。
少なくともタイアップで読者が損してることは一つもないと思います。
無料で読んでるわけだし。

そもそも昨今の出版不況を考えれば、タイアップなしでは
企画は成り立たないと思うんですよ。
雑誌「カメラマン」が休刊に至ったのは、コロナ禍で
キヤノンの出稿が止まったことが原因のひとつと書いてありました。
TVの「温泉湯けむり殺人事件」で、刑事が不自然なくらい温泉宿の名前を
連呼したって、それは笑って許してあげないと。
お気に入りの宿の露天風呂に女性の死体が浮いてるのを
TVで見た時はがっかりしたけどねえ…。
出てくるのは金の話ばかりでイヤになる。もっとクルマに乗るべきだ
スーパーカーは買ったそばから価値がアホのように下がります。
これは新車の場合に顕著。
中古になると下落の幅は緩やかですが、それでも日々買取価格はやせていきます。

距離、年式、飛び石、擦り傷、シートのしわ。クラッチの残量。
気にするところはいくらでもある。例えるなら縁日の綿アメのごとし。
ひたすらしぼんでいくわけです。雨の日に乗るなんてとんでもない。溶けてなくなるよ!
たまに乗ると、気疲れでぐったりします。
そのうち眺めて洗車するだけで満足するようになります。
ゆえに大抵のヒトは年に1000㎞くらいしか乗らない。
360モデナの購入価格を仮に1200万円とすると、1㎏の金(地金)2個分くらい。

360モデナに乗るのは金の延べ棒を丸出しの状態で両手に持って外出するのと同じ!
とてもじゃないけど、マトモな精神状態では居られるわけがない。
家にいるのが一番だ(爆)
記事の内容が薄い。ドラレコだのカップホルダーだの、走りと関係ないだろ。
ちょっとしたカスタマイズでも読んで面白い記事になっているのは
さすがプロ編集者と思うわけですが、こんなところにも不満をぶつけるヒトがいる。
1円も払ってないのになあ(爆)
ちなみにドラレコはともかくカップホルダーはめちゃ重要ですよ。
精神的緊張ですげえノドが渇くんです。

ちょっと前までは、スーパーカーはろくに小物を置く場所がありませんでした。
置き場所のないクルマだと、コーナーでペットボトルがぶっ飛ぶ。
拾いたくても、シートがタイトで体が動かせない。クルマを止める場所をまず探さないと。
車高の低いクルマが安全に止まれるところって意外に少ない。
焦ってる時に限って、鼻先を擦ったりホイール削ったり(経験談)
そういえば、以前クルマの中では絶対飲み物は飲まないという
ポルシェオーナーに会ったなあ。大事なクルマの中で飲むなんて出来ないって。

ノドが渇いたらどうするの?と聞いたら、サービスエリアで
水道水を飲むって言ってました。ローンが苦しいから節約するんだと。
読者はこういう修行系の話を読みたいのかも。
個人的に面白いな、と思ったのは、純正のアンダーカバー交換の記事。
パーツ代が6万円というのも意外でした。もっと高そうですけど。
交換するカバーにはボルトを挿入する穴が開いてないとのこと。
実車に合わせて穴を開けろってことですな。

「フェラーリ・メカニカル・バイブル」の著者、平澤雅信さんによれば、
クラシックフェラーリのドアを注文したところ、全くはまらない部品が送られてきたそうです。
ハンドメイドの車にありがちですけど、寸法が車ごとに少しずつ違うんでしょうね。
職人が現場で切って合わせるのが前提のようです。
そういう話には枚挙にいとまがない。
部品の塗装が劣化してべたついてきたので、交換品をオーダーしたら
届いた交換品がすでにべたついてた(汗)とか。
すごく面白い本なので、興味のある方はぜひ。
3000万円超の限定車をオーダーしてコンテナを開けたら、
注文したのと違う色に塗装されてた(笑)という話も聞いたことがあります。
アンダーカバーに開いてるはずのネジ穴がないというのは
いかにもイタリアらしいテキトー感があって、ちょっと嬉しいです。
車のオーナーを「オウナー」サービスのことを「サーヴィス」などの独特な表記がヘン
うん、これはヘン。最初は気になったけど慣れた。でもオウナーは変だよね。
関係ないけど業界では、ディーラーのことを「デーラー」っていうじゃん?アレもヤダなあ。
あと、スムーズのことをスムースっていうのも(以下略)
そういうわけで、これからも稲垣さんには頑張って楽しい記事を書いてほしいです。